(卓上の音楽) |
音楽の原点を探る |
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1.背 景 普段の会話で当たり前のように飛び交う言葉の中にも解らないことが沢山ある。音階ができた背景は?、美しい音色とは?、音色を決める倍音の正体は?、ハーモニーの正体は?、 楽しい/悲しい響きとは?、楽曲の仕組みは?、等々、関心ごとは沢山あり、これらを自然現象の中から学ぼうとした。 人は、本能のままに音楽との繋がりを築いてきた。ならば音楽は人為的に考えられた約束事ではなく、自然現象の中から生まれた事象だろうと推察できる。 たとえば、5度の調和、倍音列の響き、差音のハーモニー、規則的リズムの中の不規則な揺らぎ、など、音楽の原点が自然法則の中にある。 その自然法則というのは実に合理的に出来ており、足し算より引き算の美意識の方が合理性に叶う。 そう考えると、音楽ありきで総花的に学ぶより、身近な自然現象の中から音楽を学んだ方が、理解が深まることを実感した。 そこで、これまで断片的に得た音楽の知識を、復習と整理を兼ねて備忘録のつもりで纏めてみました。 2.自然現象の中から音楽を学ぶと理解しやすい ・・・ 音楽と人の本能 3.和む音には、不規則な揺らぎがある ・・・ Simple is Best 4.鍛冶屋の鉄打つ音から音楽の存在を予想 ・・・ ピタゴラス音律の誕生 5.ピタゴラス音律 ・・・ ミ-ファ、シ-ド間が半音なのは? 6.平均音律と純正音律 時代は過ぎて11世紀ごろから、一つの旋律をユニゾンだけでなく4度、5度、8度で重ねて歌う多声音楽がピタゴラス旋律によって用いられていた。 (度数の数え方は、7章[2]音程の話 で説明します) ところが、14世紀後半ごろ、教会を中心に音域の広い多声音楽が進展すると、ピタゴラス音律ではオクターブ間で調子外れに響かせてしまうことが問題になってきたそうです。 ピタゴラス音律の誕生から2000年近く後の、16世紀ごろになって、ピタゴラス音律のオクターブ間の響きだけはぴったり合わせようと考えるようになり、ここに平均音律が誕生しました。 一方、その前の15世紀ごろには、その多声音楽も複雑化し、別の動きとして、3度、6度の音程もきれいに響く音律が考えられるようになり、純正音律へと発展していったようです。 (1)平均音律 平均音律を最初に使いはじめたのは、音楽の父と称されるバッハ(バロック音楽時代)だったそうです。 前述5章のピタゴラス音律では、互いに調和する音を求めて一巡すると、13番目(1オクターブ上)のC' は、最初のCの2倍より高めに狂っており、 その差24セントの誤差(半音=100セント※)が出てしまう。 この余り24セントを12個に均等に割り振って、CとC' のずれを無くしたのが平均音律です。 つまり、この余りをピタゴラス音律の各音に割り振ったことにより、オクターブ間の響きにうなりが無くなり、 これによって任意の調に転調することが可能になった。これが平均音律の最大のメリットです。 それに、平均音律は和音にうなりが発生すると云われるが、耳障りもそれほど悪くないので今も利用されています。 たとえば、ピアノ、オルガン、木琴、ハーモニカのように、音の出る位置が決まっている楽器には平均音律が用いられています。 臨時記号#・♭を使い分けた楽譜を見かけますが、平均音律を使う楽器では、たとえば、ド#とレ♭は同じ音になる、 といった幾つかの問題点は妥協されているようです。 これに対して、下記の純正音律を採用する、弦楽器、フルート、トランペットなどは、吹き方や弦を押さえる指の位置で音程を自由に修正できるので、 #と♭は使い分けて演奏されているようです。 ※ セントについて: セントの話が出たところで、度数よりもっと細かい音程の加減について説明しておきます。 人の耳では音程の差は周波数の比で認識されるため、 たとえば、「ド・ソ」間は周波数比で2:3、「レ・ミ」間は9:10、のように表現されるが、これでは分かり難いので、セント(cent)という単位が使われるようになり、 対数軸で1オクターブを1200等分して、その単位をセントと名づけました。 これによると、1オクターブは1200セント、平均音律の半音は100セント、同じく完全5度は700セント、純正音律の5度は702セントになる。 音程の加減もセント値の加減によって行われ、短2度+長2度ならば、100セント+200セント=300セントというようになります。 実際の計算式で表わすと、ある音程比Rのセント値 Cent=log(R) / log(2)*1200)になります。 (2)純正音律 純正音律は、基準音の周波数の整数倍(自然倍音)を用いて、うなりが発生しない美しい和音を作るための音階です。 主要三和音(ドミソ、ファラド、ソシレ)はすべて周波数比で4:5:6の関係を保っているので美しい響きになります。 その音階の作り方は、最も調和する周波数比2:3(完全5度)と、次に調和する周波数比4:5(長3度)だけを用いて長音階を決め、 周波数比2:3(完全5度)と周波数比5:6(短3度)を用いて短音階を決めています。 すなわち、長音階の場合は、下の図のようになります。 (図中、各音名に周波数比率が付いていますが、この値はこの後で分ります。) (a) 基音C(ド)の3度上がE、5度上がG、Cの8度上がC'、C'の5度下がF、これだけは一義的に決まる。 (b) 次にGの3度上(周波数4:5)がB、5度上(周波数2:3)がDが決まる。 (c) さらにFの3度上がAが決まる。 以上の幹音(♯、♭などが付いていない音)を1オクターブ内に配列することによって下図のようなハ長調の音階が得られます。 下図を見て、太線は調和する音の周波数比1:2、2:3、4:5で一義的に決まる音程、細線はピタゴラス音律で見たように他との関連性で決まる音程を示しています。 (短音階の場合は、Aを基音に、長音階と同様に、周波数比3:2(完全5度)と5:6(短3度)を使って音階を決めていくことになります。) ■ 基音Cに対する各音の周波数比率 周波数比で音階を組み立てていくと、基音Cの周波数を1とすれば、E=5/4、G=3/2、F=2C÷3/2=6/3X2/3=12/9=4/3、は一義的に決まる。 その他は従属的に決まり、B=GX5/4=3/2X5/4=15/8 (或いは、B=EX4/3=5/4X3/2=15/8)、2D=GX3/2=3/2X3/2=9/4 (D=9/8)、 A=FX5/4=4/3X5/4=20/12=5/3、これらの周波数比で音階を描くと上図のようになります。 そして、各音間を周波数比で見ると、たとえば、E・D間=5/4÷9/8=10/8X8/9=10/9、 E・F間=4/3÷5/4=4/3X4/5=16/15、B・C'間=2÷15/8=16/15、以下同様です。 ■ 純正音律の複雑な特徴 上の図から、半音は 16/15 だけだが、全音は 9/8 と 10/9 の2種類が存在し 、半音X2 ≠ 全音 です。 言い換えれば、同じ全音なのに、たとえば、C・D間とD・E間では響きが異なります。 そして、もう一つ、ここではC調を基準にしているので、調を変えると矛盾が生じます。理由は後述の派生音を伴うからです。 ■ ミ〜ファ間、シ〜ド間が半音なのは、なぜ?: 上図のE〜F、B〜C' 間が半音になっていることがその答えです。 4章(a)でピタゴラス音律を作るとき、最もよく調和する音を周波数比で積み上げていくと、上図と同じような音階ができました。 答えは既にそこにありました。しかも2つの半音の周波数比はぴったり一致しています。 (但し、上記によって半音の2倍が全音になるとは限りませんが、全音の約半分ということです。) 音階は音の階段ですから、「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」の音程差が「全・全・半・全・全・全・半」になっており、数値で見ると全音の途中に半音という段差があるように見えるが、 耳で聴いた音に段差が生じないことが大切ですから、ピタゴラス音律のように、最もよく調和する音を周波数比で積み上げたときの音階が、聴覚にとって段差のない階段であることが解ります。 要するに、音程差が「全・全・半・全・全・全・半」になっているとき聴覚には、段差のない直線的な階段を上っていくような響きに感じると言うことで、これが長音階の特徴です。 これに対して、短音階(自然短音階)の場合は、音程差が「全・半・全・全・半・全・全」になっており、聴覚にとって階段が不安定なため音の響きも情緒不安定になります。 これについては、短音階の謎として、14章のテトラ・コードで詳しく説明します。 ■ 純正音律ではC#とB♭は同じ音ではない: 平均音律と異なり、上図の純正音律では、よく調和する周波数比で各音を割り振っているので、整数比による唸りのない和音が得られました。 上述のように、純正音律には長短2種類の全音があるため、長い方(8:9)を大全音(長全音)、 短い方(9:10)を小全音(短全音)と呼んでいます。ここが純正音律の複雑なところです。 もう一つ、E・F、B・C' 間は4/3÷5/4=4/3X4/5=16/15(15:16)で、これは半音になるが、この半音2個分にしても大小の全音にはならない。 つまり、純正音律の半音は全音の半分ではない。 このことから、たとえば、平均音律ではC#とB♭は同じだが、純正音律では違う音になるという繊細さが生じます。 尚、楽譜に記載する臨時記号としての#と♭のの使い分けについては、15章(-1)で説明しています。 ■ 派生音を伴う音程の場合: (派生音とは、♯、♭などの臨時記号が付いた音、幹音は、♯、♭などが付いていない音:8章参照) 話は発散し、複雑になるばかりです。 これまでは、上図のように幹音だけの音程で、半音の周波数比は(15:16)で一定でしたが、#や♭が付くと周波数比はどうなるでしょうか。 たとえば、ド・ド#間、レ・レ#間の周波数比はどうなるか。 上図から、全音には、9/8(大全音) と 10/9(小全音) の2種類が存在しています。 そこで、夫々の全音を2つの半音に分割してみます。 先ず、@ド・ド#、ド#・レ間を考えてみる。一つはE・F間と同じ周波数比16/15の半音、もう一つを(?)にすると、 ド・レ間の周波数比は9/8だから、(9/8)=(16/15)X(?)、∴ (?)=(9/8)X(15/16)=135/128。つまり、大全音のド・レ間は16/15と135/128の半音に分割されます。 同様に、Aレ・レ#、レ#・ミ間を考えてみる。一つは16/15、もう一つを(?)にすると、 レ・ミ間の周波数比は10/9だから、(10/9)=(16/15)X(?)、∴ (?)=(10/9)X(15/16)=150/144=25/24。つまり、小全音のレ・ミ間は16/15と25/24の半音に分割されます。 この結果を纏めると次の通りです。 @大全音(C・D間、F・G間)は、半音(15:16)とリンマ(128:135)に分割され、 A小全音(D・E間、G・A間)は、半音(15:16)とディエシス(24:25)に分割されます。 言い換えれば、C・D間、G・A間の例では、次のようになります。 C・Aの間隔は、8:9(大全音)だから、 C:C#=15:16、 C#:D=128:135 G・Aの間隔は、9:10(小全音)だから、 G:G#=24:25、 G#:A=15:16 (上方から下りてくる場合は) A♭:A=24:25、 G:A♭=15:16 純正音律の音程は整数倍の関係なので、当然綺麗にハモる。ところが、そうでない音程も存在します。 例えば、完全5度の筈のD・A間の周波数比は、27:40(5/3:9/8=3X9:5X8)という複雑な比率になります。 同じ完全5度なのに、なぜ音程の響きが違うのか、完全5度のC・G間を、C・D・E・F・Gにばらして考えると、 大全音+小全音+半音+大全音で構成されるが、D・E・F・G・A間は小全音+半音+大全音+小全音、 つまり大全音が1個少なく、代わりに小全音が1個多いのが原因です。このD・A間の「少し小さめの5度」は、濁った響きになります。 (平均音律の5度のような微妙な濁りではないが) したがって、純正音律と云っても特定の音の組み合わせが純正であって、中には濁った音程も存在します。 このように、ピタゴラス音律では基音Cから完全5度で順次積み上げて、少なくとオクターブ内ではよく調和したのに対して、 純正音律は完全5度と長3度で音程を決めているため、完全5度の筈のD・A間で調和しない濁りのある音程が存在するということです。 ■ 純正音律は、移調・転調に向かないという点: 上の図で、たとえば「C〜G」間の周波数比と「D〜A」間の周波数比では、 どちらも完全5度の音程でありながら前者の周波数比が3/2 (=1.5) であるのに対し、 後者の周波数比は(5/3) ÷ (9/8) = 1.48であり、僅かに比率が違っています。つまり、同じ音程差なのに調によって感じ方が異なるということです。 もう一つの例で、同じ長2度でも、ハ長調の「D〜E」間の周波数比が「9:10」に対してイ長調の「D〜E」間は「8:9」と僅かに違うことが分かります。 上記ではハ長調の音階の場合でしたが、次に調を変えて、 同じ周波数比でAから始まるイ長調の音階にあてはめてみると、上の図の最下段で示すように、A・B・C#・D・E・F#・G#・A' にる。 これは、純正音律では音と音の間隔が均等でないので、転調すると正しい音階にならなくなるという問題があります。 しかし、純正音律を使っている楽器(弦楽器、フルート、トランペットなど)では、 吹き方や弦を押さえる指の位置で音程を自由に修正できるそうで、上記の点を問題視していないのかも知れません。 次に上の図を使って、主要三和音の周波数比を確認してみると、 純正音律の長音階の場合、主要三和音である I, IV, V (長3和音)は音程比が4:5:6になり、うなりのない響きになる。 またIII, VIの和音も、10:12:15となり、うなりのない響きになる。 T(トニック)=ドミソ、W(サブドミナント)=ファラド、X(ドミナント)=ソシレ、を上記純正音律の図で示すと、 C-E-G(1:5/4:3/2)、F-A-C(4/3:5/3:2)、G-B-D(3/2:15/8:2*9/8=12:15:18)、 何れも4:5:6の比であり三和音として最も単純な比率になることが解ります。 ■ 純正音律の音程表: 上記で求めた純正音律の音程を纏めると、次の表になります。 長音階は、Cを基音として、最も調和する周波数比2:3(完全5度)と、次に調和する周波数比4:5(長3度)だけを用いて音階を作りました。 (表の値は、基音Cからの音程差で示しています。)
短音階は、Aを基音として、最も調和する周波数比2:3(完全5度)と、次に調和する周波数比5:6(短3度)だけを用いて音階を作りました。 (表の値は、基音Aからの音程差で示しています。)
和声短音階・旋律短音階については、14章「短音階には3種類ある」を参照してください。 ◆管楽器やフレット(ギターのような弦の区切り)を持たないバイオリンのような弦楽器では、 吹き方や弦を押さえる指の位置で音程を自由に修正できるので平均音律を使わず、純正音律で調律するそうです。 しかし、これまでの議論の多くは、計算上の話。 実際の演奏で、複雑な倍音を含む場合(倍音については9章参照)や、ビブラートをかけて演奏すれば、 ビブラート自体が唸りを作ることだから純正音律云々の話は意味を持たなくなるような気がします。 7.各音律の特徴、音程の話/音の調和とは 8.協和音・不協和音について 9.自然に発生する音はすべて正弦波の組み合わせ ・・・ 倍音の誕生 10.ハーモニック(高調波・倍音・調和)と 倍音列 11.基音が音程を決め、倍音が音色を決める 12.和音・差音・うなり音・ハーモニー ・・・ 差音の謎:綺麗な音と嫌な音 13.共振・共鳴・同調 ・・・ 群軽折軸の如く 14.調の成り立ち:テトラ・コード(TetraChord) ・・・ 短音階の謎 15.五度圏図・調号と臨時記号 |