(卓上の音楽) |
音楽の原点を探る |
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1.背 景 普段の会話で当たり前のように飛び交う言葉の中にも解らないことが沢山ある。音階ができた背景は?、美しい音色とは?、音色を決める倍音の正体は?、ハーモニーの正体は?、 楽しい/悲しい響きとは?、楽曲の仕組みは?、等々、関心ごとは沢山あり、これらを自然現象の中から学ぼうとした。 人は、本能のままに音楽との繋がりを築いてきた。ならば音楽は人為的に考えられた約束事ではなく、自然現象の中から生まれた事象だろうと推察できる。 たとえば、5度の調和、倍音列の響き、差音のハーモニー、規則的リズムの中の不規則な揺らぎ、など、音楽の原点が自然法則の中にある。 その自然法則というのは実に合理的に出来ており、足し算より引き算の美意識の方が合理性に叶う。 そう考えると、音楽ありきで総花的に学ぶより、身近な自然現象の中から音楽を学んだ方が、理解が深まることを実感した。 そこで、これまで断片的に得た音楽の知識を、復習と整理を兼ねて備忘録のつもりで纏めてみました。 2.自然現象の中から音楽を学ぶと理解しやすい ・・・ 音楽と人の本能 3.和む音には、不規則な揺らぎがある 古代ギリシアのピタゴラスは、「天体の惑星は回転しながら固有の音を発しており、太陽系全体が音楽を奏でている」という概念を持った数学者だったそうです。 天体も原子もその運動と振動によって固有の音を発しており、 それらが互いに調和して成り立っていると考えていたそうで、後に出てくるピタゴラス音律へと発展させ、そして現在も使われている音階(ドレミ・・・)を作った人だそうです。 (1)和む音と異常な音 前章で出てきたように、人は自然の中で生きるため、和む音か危険の迫る音か、本能的に反応する能力を養ってきた。 音は物が動くときの振動によって生まれるので、自然に馴染む穏やかな音と、危険の迫った異常音(※)を無意識にでも認知している。 自然の中で発するこれ等の音の正体と性格、その音を聞く人の聴覚、錯聴などを知ることにより、 音楽はその特性をうまく利用しているだろうと想像できます。 その自然に馴染む穏やかな音は、複数の音の周波数が互いに整数倍になっていることが解ってきました。 そして、互いに調和する2つの自然音の積み上げから音階の存在を導き出していることも解ってきました。 8章で出てくる、協和音・不協和音は異常な音ではない。協和音なら良い/不協和音は悪いというイメージにはならない。 たとえば、古典派のクラシック音楽ではほぼ半分が不協和音、ロマン派では7〜8割が不協和音から成っているそうです。 よく使うセブンスコードも不協和音です。 ※ 上記の異常音は、偶発的に発する不規則で不安定な音、その波形を見ても和む音とは明らかに違う。 (2)リラックスして聴ける音楽演奏には不規則な揺らぎがある 「不規則な揺らぎ」とは、一定のリズムの音が、一本調子ではなく不規則に揺らぐ、という意味です。 音楽を聴くという行為にもいろいろあるでしょうが、穏やかな気持ちで聴く音楽を想定します。 正確さと美しさは別の話。たとえば2本の直線を引くとき、(a)1本は定規を当てて引き、(b)1本はフリーハンドで引く。 どちらが正確かといえば(a)、どちらが美しいかといえば(b)を選ぶだろう。パソコンで正確に自動演奏してもぎこちなく聴こえるは何故だろう。 正確とは自由度が無いことで、自由度が無ければ人の生体リズムが損なわれ窮屈で疲れる。やはり、リラックスできるだけの余裕ある揺らぎは必要です。 パソコンで音楽を自動演奏するMIDI(Musical Instrument Digital Interface)ファイルを作るとき、 楽譜どおり正確に作ることは容易だが、プロが演奏するように不規則な揺らぎを挿入するのは難しい。 楽譜上のピッチを周波数に換算して分析しても、「ゆらぎ」にはなり得ない。 楽譜は音楽の物語を記述するだけで、一種の仕様書みたいなもの。 楽器や演奏者によってその「ゆらぎ」が創られて、本能的な穏やかさ、心地よさを感じるのだと考えられます。 これは、詞や物語を朗読するのと良く似ています。 では、音楽を聴いたとき何が揺らいでいるのか。 楽譜にある規則的なリズムや音量、音の長さなどが不規則に揺らぐ、音色も不規則に揺らぐ、 メロディに敢て強弱を付けて演奏するのも「ゆらぎ」一つ、等々、リラックス感を得るには、一本調子ではなく、それら揺らぎの与え方が課題になるでしょう。 自然界では、ろうそくの炎の揺れ、電車の揺れ、小川のせせらぎ、人の心拍の間隔、 波の音、たなびく雲、そよ風に揺れる木の葉の音、樹の年輪や木目の間隔、リアス式海岸線などは、癒しの揺らぎです。 このように、人は規則的なリズムの中で、不規則に揺らぐ音や形に、本能的な心地よさを感じるのです。 これら揺らぐ波形を調べてると、「周波数分の1の揺らぎ」(1/f ゆらぎ)との相関が強いことが解ってきました。 実は、人が不安から解放され、心身ともに落ち着いて安らいでいるときに脳から出る α 波(周波数 8〜13Hz)も、「1/f ゆらぎ」になっているそうです。 お寺の鐘の音も、余韻の中に含まれる「1/f ゆらぎ」が、心身をリラックスさせるのだと言われます。 梵鐘の音を聞くと、どこか穏やかな気持ちを抱くはこの効果でしょうか。 電車に乗っているとき妙に眠くなるのも、電車の揺れが生体リズムとよく融合したときだろうと考えます。 (3)生体のリズムと「1/f ゆらぎ」 「1/f ゆらぎ」が有効というのは、科学的根拠が明確になっているわけではありません。 しかし、人の生体リズムが「1/f ゆらぎ」になっていることは多方面で検証されています。 故に、自然が生み出す「1/f ゆらぎ」が人に快適感や安らぎを与えるのは、このためだろうと考えられています。 生体のリズムとは、人が意識しなくても日々の活動を維持するために決まった周期で変動するリズムのことで、たとえば、心拍や呼吸は秒単位、睡眠は約90分、体温や血圧は約24時間のリズム、などです。 これらは正確なリズムではなく、バラつきのあるリズムで、それが「1/f ゆらぎ」にほぼ一致していると言うのです。 特に心臓の鼓動は生体リズムの典型的な例で、心電図の波形を基に心臓の鼓動の周波数を解析すると年齢差で多少の違いはあるにせよ「1/f ゆらぎ」に強い相関があることが報告されています。 この報告ではそれだけではなく、血圧や脳波のα波、歩行、なども同様だそうです。 何故そうなるか、そのメカニズムは解明されていないというが、「1/f ゆらぎ」の効果は統計的に確実視されています。 前の2章(3)で、「大脳辺縁系と脳幹は、人間が進化する以前から持っていた、生命維持のための本能を司る古い脳で、特に脳幹は心拍や呼吸を司る脳である。 そして、嗅覚と同様に理性の伴わない音は、大脳新皮質をスルーして大脳辺縁系に直結する」と言いました。 まさに、生体のリズムと音楽は大脳の同じメカニズムで処理されていると言えます。 ならば、外部から「1/f ゆらぎ」の音を与えたとき、それが生体リズムに融合して、自律神経が整い、穏やかな気持ちになっても不思議ではないと考えます。 ■ リラックス と「Simple is Best」: 自由度〜余裕度〜自然なゆらぎ 足し算による美学/引き算による美学、どちらを選びますか。 広大な花畑一面に咲き誇る花の全貌を遠くから観るのも美しいが、近寄って観るともっと美しい。 「一輪の朝顔」の逸話があります。千利休の茶室の傍に、沢山の朝顔の花が咲き誇っている噂を聞いた豊臣秀吉が観に行ったそうです。 ところが朝顔はすべて刈り取られてあり、怒った秀吉が利休の案内のまま茶室に入ると、床の間に一輪の朝顔だけが生けてあった。 その、あまりの美しさに秀吉は心を打たれたという逸話です。 黄金の茶室のように贅を尽くした、秀吉の足し算の美意識と、利休の清貧な引き算による究極の美学との激突のように見えます。 朝顔の真の美しさを知って欲しい、そのためにすべてを刈り取り、1本だけ残すという利休の演出だったかも知れないが、 引き算による簡素な環境の方がリラックスできて、美を一層引き立てるという意味合いもあったと思われます。 ここでは引き算による「Simple is Best」のほうが優れていたという逸話です。 ここからは、シンプルな方が自由度があって発想を広げる余裕さえ生まれるように理解しました。 もう一つ、昭和の終わり頃だったでしょうか、吉川英治『宮本武蔵』の朗読を、NHKラジオで聴いていたことがあります。 朗読者は当時のNHKアナウンサー 鈴木健二さんでした。連日夜11時からの15分間でしたが、完全にその世界のとりこになっていました。 朗読の良いところは、ぜい肉を取り去った、まさに「Simple is Best」です。 映画を観ているわけでもなく、静寂な中で原作を淡々と朗読するだけなのに、物語の映像がきちんと脳に展開される、そんな印象を強く受けたことを思い出します。 要するに、間のとり方など、聴く側に映像を描く余裕を与えながら物語を進行していくところに、ゆらぎ効果の共通点を見たような気がします。 ハーモニカ奏者の独奏でよく見かけることですが、ハーモニカ特有のいろんな技をメロディに足し算して演奏することが多いようです。 そこには「1/f ゆらぎ」は存在しません。技の方に引き寄せられ過ぎるためか、楽曲本来の曲想が素直には伝わりにくい。 それは演奏者の好みの問題だろうが、聴く側に本来のメロディを味わう余裕を与えてくれた方が、その演奏を豊かに聴けるのではないかと個人的には思った。 ■ 「1/f ゆらぎ」のメカニズム: 「1/f ゆらぎ」とは、音を周波数ごとに波の強さを調べてみると、 右図のようにパワースペクトル(音の強さ)が周波数 "f"に反比例する揺らぎを含んでいることが多くあり、 このような特性を持つ音の響きは、人にとって心地良い「ゆらぎ」であることが統計的に明らかになりました。 これと同じ周波数特性を持つ光がピンク色に見えることから、一般にピンクノイズとも呼ばれています。 つまり、低周波成分(赤色パワー)が強く、高周波成分(青色パワー)が弱いことから付けられた名前です。 これが癒し効果の目安になっており、このような演奏ができれば心地よいだろうと想像できます。 因みに、「1/f ゆらぎ」を持つ歌手に、美空ひばりの名前がよく出てきます。 何がどう揺らいでいるのか理解できません。あるとすれば、声帯の筋肉の動きが、歌詞に現れる映像の中に溶け込んだ歌声になっているから、それが自然な「ゆらぎ」に繋がっているのではないかと想像します。 楽曲を演奏する場合も同様で、作曲家が想い描いた物語の中へ溶け込んで演奏できれば、曲によっては「1/f ゆらぎ」の効果を得ることが出来るのではないかと考えます。 自分が演奏する中に「1/f ゆらぎ」が含まれているか、 パソコンで測定できるソフトがあります。 試しにインストールして、自分の演奏した録音で測定してみたが、理想的な結果は得られませんでした。 一方、いつも素晴らしいと思う、ある好きなソプラノ歌手が歌う、荒城の月、五木の子守唄、の録音を再生して、測定してみたところ2曲とも見事に「1/f ゆらぎ」の特性になっていました。 ■「1/f ゆらぎ」を測定する方法: 「1/f ゆらぎ」をパソコンで測定することは、録音された音楽データを周波数解析することです。 しかし、これには膨大なデータに膨大な計算が重なり、処理時間からみて現実的ではありません。 このため、音楽データをブロック化して計算を簡素化する方法を採っているので、上記のような理想的な「1/f ゆらぎ」とは精度面で異なります。 したがって、楽曲全体の評価ではなく、その曲の流れの中で、必要な部分を切り取って、その部分の揺らぎ度合いだけを評価するようにすれば、利用価値が出てきます。 演奏ファイルの「1/f ゆらぎ」を簡単に測定するには上記で紹介したソフトを利用すればよいのですが、どのような測定方法か、原理を右図で説明します。 通常の音楽録音では、44.1KHz/秒で記録します。つまり1秒間に44,100個のデータが録音されます。 1曲3分とすれば、3×60×44100=7,938,000のデータになり、実際にこれだけの膨大なデータを使って、楽曲全体の周波数解析をすること自体、膨大な計算時間を要して現実的ではありません。 そこで、簡易な計算方法として、楽曲の最初から複数のブロックに区切り、 たとえば、1ブロックを2048個のデータとして、そのブロックごとに周波数解析すれば、計算量が大幅に軽減できます。 たとえば3分の楽曲の揺らぎを解析する際は、3×60×44100÷2048=3876個のブロックができます。 そこで、各ブロックごとに2048個のデータを周波数解析して、それらすべてのブロックのパワースペクトルを積み上げれば、 近似的に曲全体のパワースペクトルが完成するというものです。 右の図で、時間軸上で刻々流れる音楽の波形(1)を周波数領域へ変換(2)することをフーリエ変換(FFT)といいますが、これは改めて9章で説明します。 図の中で、(1)は1曲全体の波形です。 その波形から1ブロック2048個のデータをサンプリングし、そのデータを周波数解析して(2)のパワースペクトルを得ます。 各ブロックごとに得たパワースペクトル(2)を、曲全体のパワースペクトル(3)の中へ積み上げていきます。 そして、すべて計算が終了した時点の(3)が曲全体のパワースペクトルになるので、この特性が「1/f ゆらぎ」になっているか否かで評価すればよいことになります。 (1)は、横軸が時間、縦軸が振幅、(2)(3)は、横軸が周波数、縦軸がパワー(db)です。 但し、簡素化とはいえ、楽曲全体のパワースペクトル(3)を得るのも相当な時間がかかるので、 やはり、前述のように、曲全体ではなく、必要な部分を切り取って評価したほうが現実的と思います。 補足:上記のピンクノイズに対してホワイトノイズがある。 これは、人の耳に聞こえる可聴域の全ての周波数が均等な強度をもつノイズで、上図でいえば周波数特性が平坦になる。 特徴は集中力のアップや睡眠誘導の効果があるとされているが、聴きすぎは脳に良からぬ影響を与えるとも指摘されています。 昔のアナログテレビ(NTSC方式)で、番組終了のチャネルに合わせると、ランダムな映像と共に「シャー」という音がしていましたが、あれがホワイトノイズ、要するに普通の雑音のことです。 4.鍛冶屋の鉄打つ音から音楽の存在を予想 ・・・ ピタゴラス音律の誕生 5.ピタゴラス音律 ・・・ ミ-ファ、シ-ド間が半音なのは? 6.平均音律と純正音律 ・・・ それぞれの歩みと特徴 7.各音律の特徴、音程の話/音の調和とは 8.協和音・不協和音について 9.自然に発生する音はすべて正弦波の組み合わせ ・・・ 倍音の誕生 10.ハーモニック(高調波・倍音・調和)と 倍音列 11.基音が音程を決め、倍音が音色を決める 12.和音・差音・うなり音・ハーモニー ・・・ 差音の謎:綺麗な音と嫌な音 13.共振・共鳴・同調 ・・・ 群軽折軸の如く 14.調の成り立ち:テトラ・コード(TetraChord) ・・・ 短音階の謎 15.五度圏図・調号と臨時記号 |