(卓上の音楽) |
音楽の原点を探る |
画像加工広場 老夫婦の旅記録 |
1.背 景 普段の会話で当たり前のように飛び交う言葉の中にも解らないことが沢山ある。音階ができた背景は?、美しい音色とは?、音色を決める倍音の正体は?、ハーモニーの正体は?、 楽しい/悲しい響きとは?、楽曲の仕組みは?、等々、関心ごとは沢山あり、これらを自然現象の中から学ぼうとした。 人は、本能のままに音楽との繋がりを築いてきた。ならば音楽は人為的に考えられた約束事ではなく、自然現象の中から生まれた事象だろうと推察できる。 たとえば、5度の調和、倍音列の響き、差音のハーモニー、規則的リズムの中の不規則な揺らぎ、など、音楽の原点が自然法則の中にある。 その自然法則というのは実に合理的に出来ており、足し算より引き算の美意識の方が合理性に叶う。 そう考えると、音楽ありきで総花的に学ぶより、身近な自然現象の中から音楽を学んだ方が、理解が深まることを実感した。 そこで、これまで断片的に得た音楽の知識を、復習と整理を兼ねて備忘録のつもりで纏めてみました。 2.自然現象の中から音楽を学ぶと理解しやすい ◆ 音楽は自然界で発生する物理現象から発展してきたと推察できます。 たとえば、やまびこの現象や鉄を打つ金槌の音から音階の存在を知ったり、自然な音の揺らぎ現象から音楽を読み解くことができます。 ◆ 音波は空気の振動、電波は電磁界の振動、地震波は大地の振動、生体リズムは心拍、あらゆる物は固有振動数をもっており、 外部からの振動周期に波長が合うと共振・共鳴によってエネルギーが伝わり、更に大きく振動する。 地震は、建物が地震に同調すると倒壊の恐れがあるので建物の偏心率(重心と剛心のずれ)を抑えるよう設計されるが、 音楽は、この共振・共鳴という増幅現象を利用して音を遠くへ届ける。 ◆ 音と生体リズムの繋がりで言えば、個人の生体リズムに適う音のリズムがあればやすらぎを覚える。 人は自然の中で生きるため、常に平和で居たい本能と、危険が迫った瞬間にそれを察知・防衛する本能が働き、 それが自然に和む音か否かを無意識的にでも認知し、その音に本能的に反応する能力を養ってきた。 そこで、日ごろ体験する自然現象と人の本能との繋がりを読み解きながら音楽を考えてみました。 (1)一つの音に人はどう反応するか メロディラインではなく、一つの音を聴いたときの感じ方は、人を問わず共有される部分が大きいと考えられる。 その点で、それぞれの音の響きには意味があります。 たとえば、ハ長調のラ音は、波形的にも最も安定した和みを与える音で、音楽の基本の音。 ピアノの左端のA0音は27.5Hzのラ音で、人が認識できる最低音のラです。 NHKラジオの時報「プ・プ・プ・プ〜ン」のプは440Hz、プ〜ンは880Hzのラ音で、心の和む音として使われています。 お寺の鐘の音、この音を聞くと、どこか寂しく穏やかな気持ちを抱くのは何故でしょう。 お寺の鐘は、130Hz(≒C3) 辺りに基音を持ち、多くの倍音を発生させて美しい響きを伝えています。 鐘の胴が共鳴具となって、どんな様子で胴が震えるのか、 おそらくは低周波から高周波までを含む倍音を生み出し、その余韻の中に含まれる「1/f ゆらぎ」(3章)効果が出来て、それが鐘の震えに繋がっているように想像します。 特に晩秋の晴れた日の夕方に、遠くに響く鐘の音には哀愁に満ちた感じがします。 もっともお寺の近くの住人には、一部うるさいとの感情があるかもしれませんが。 赤ちゃんの声は、普段は400〜600Hzの穏やかな音ですが、何かを訴えて大声で泣く時だけは、1700Hz以上という高周波の音域です。 これは、お母さんや周囲に助けを求めるため、赤ちゃんが生きる本能として、この異常音にも等しい高さで泣くものと考えられます。 この音域は人の声帯振動音では出せない高い音ですが、その音が出る理由は9章で扱う、倍音を本能的に大量に出しているからと想像できます。 パトカー・救急車・消防車など日ごろ聞く音ですが、やすらぎを覚える音ではない。周囲に警戒心や不安感を抱かせるような音を選んでいるだろうと想像できます。 救急車の「ピーポーピーポー」というサイレン音は、 ピー 960Hz(≒B5)/ポー 770Hz(≒G5)、音階で言うと「シーソーシーソー」 の周波数に近い音。 遠くからも注目され、よく聞こえるように比較的高い音になっています。 夜間の住宅街などで迷惑にならないよう周波数を低くしてソフトな音色にした住宅モード「ピー 850Hz、ポー 680Hz」があるそうです。 しかし、実際に聞こえる音は、ドプラー効果により、救急車が近づいて来るときは音の波長が短くなるので高い音、遠ざかるとき逆に波長が長くなるので低い音に聞こえます。 では、どれ位の音程差が出るか推定してみると、 救急車が時速 60km/h で走っているとすると、秒速は60,000m/3,600秒だから救急車は秒速約17m進む。 一方、音は1秒に約340m進むから、救急車が近づくときは、17/340=5%だけ波が圧縮され、遠ざかるときは逆に5%伸張されることになる。 770Hzと960Hzの5%は、およそ半音に近い音なので、「シーソーシーソー」の音が近づいてくるときは、「ドーソ#ードーソ#ー」が聞こえ、 遠ざかっていくときは「シ♭ーファ#ーシ♭ーファ#ー」が聞こえることになります。 これを数式で展開すると次のようになります。振動数:f(Hz)、波長:λ(m)、波の速さ:V(m/s)、とすると、V=f・λ が成り立つ。 音源が速さvで観測者に近づく時の波長は、λ'=V/f'=(V-v)/f、V・f=(V-v)・f。したがって、音源が近づくときの観測者が聞く音の振動数は、f'=f・V/(V-v) になります。 この式へ周波数を当てはめると、770HzX340/(340-17)=261.800/323=810Hz、上で求めた数値 770HzX105% とほぼ同じ値です。 一方、観測者から遠ざかるときは λ'=(V+v)/f だから、f'=f・V/(V+v) になります。 消防車では、火災出動には「カンカンカン」の3鐘、帰還時には「カ〜ン、カ〜ン」の2鐘。 火災以外の救助・救急支援・警戒などで消防車が出動するときは、「ウ〜、ウ〜、ウ〜」とサイレン音だけ、というように使い分けているそうで、何れも不安を抱くような音です。 2017年に決められた緊急警報Jアラートの音も危機感を知らせるもので、音階に当てはめてみると、C4⇒F#4⇒C4、D4⇒G#4⇒D4のように7秒間隔で変化させているそうです。 周波数で云えば、聞きやすい260Hz〜420Hz。 この中で、C4(ド)はどっしりとした音、F#4(ファ#)、D4(レ)、G#4(ソ#)は不安定な音で、敢て警戒心を持たせる音になっています。 その他、12章で紹介する、あの音だけはどうしても耐えられないという、人には共通する耐えがたい音が、2000〜4000Hz辺りにあり、何とも言い難い不規則で不安定な波形の音があります。 音階に出てくる各音の性格: 傾向として、寂しい、暗い、悲しい曲には不安定なシ・レ・ファ音が多く含まれている。 ド音はどっしり落ち着いた音で、どんな曲にも相性がよい。癒し系の曲にはラ・ミが多く、その味付けに不安定な音も入る。前向きな楽しい曲にはソ・ミが多い。・・といった具合。 個々に見るとどうでしょう。(多くの楽譜からの統計であって、合致するかは、?)(ハ長調でみる) 「ド」は、どっしりした安定感があり、どんなメロディにも相性がよい。 「レ」は、不安感・情緒不安定感・脱力感・冗長性、を感じさせる音。 「ミ」は、透明感・明るさ・安定感、を感じさせる音で、清清しさや情熱感が伝わる音。 「ファ」は、不安感・寂しさ・切なさ、を感じさせる音で、比較的寂しい曲に多い。 「ソ」は、楽しさ・希望感・うきうき感・伸びやかさ、を感じさせる音で、メロディ全体を明るくする。 「ラ」は、最も安定した音、安心感・躍動感・厳かさ・穏やかさ、を感じさせる音で、心の和む曲や厳かな曲、寂しい曲で雰囲気を出しやすい。 「シ」は、厳しさ・警戒感・緊張感・不安感・切なさ、を感じさせる音で、足が地についていない雰囲気を出しやすい。・・・、といった感じでしょうか。 もっとも、味覚と同様、味付け役に相反する音種の存在があってこそメロディラインが引き立ちます。 (2)音楽の基本を、自然現象から学ぶ 音楽とはまったく無縁の世界にいた者が、いきなり音楽理論の本を買って勉強を始めた。 文面には、音楽の約束事の如き記述が続く。なぜそうなのか、理由の記載がないから覚えるしかない。 覚えても理解できなければ役に立たない。音楽ありきの勉強ではダメだ、これが結論で直ぐに止めることになった。 そしてインターネットで音楽の勉強を始めてみると、いろんな考えや意見が出てきて面白い。 その中で多彩な考えを集約してみると、音楽は、音の自然現象を体系づけるところから始まっていることが解った。 それなら、音楽の原点を理解できれば全体像が掴めるかもしれない、の思いから音楽の歴史を調べた。 そして、誰もが体験する自然界で起こる現象に照らし合わせて音楽を考えてみると、その基本は意外と身近なところにあって、解り易いことを実感した。 たとえば、ピタゴラスは鍛冶屋の鉄打つ音から音楽の存在を予想し、調和音の存在から音階を作り出していること。 音色は、倍音(高調波)の出し方によって決まるということ。 艶のある、よく響く音色で演奏するには、倍音の出し方に工夫があること(11章)。 差音の存在が、きれいなハーモニーを作るうえで大切なこと(12章)。 など、これ等は、すべて自然現象の中から読み解くことができます。 (3)音楽の基本を、人の特性から学ぶ ・・・古代より音楽を持たない文化はなかった 動物は夫々の環境で、生きるための本能を持っている。その中で人は、本能と理性のバランスのうえで音楽との繋がりを築いてきた。 そこで、本能と理性の概要を大脳の構造から調べてみました。 ■ 大脳の4つの部位: 人間の脳は、脳幹、小脳、大脳辺縁系、大脳新皮質と大きく4つの部位からなっています。 このうち、大脳新皮質(新脳)は、大脳の表面を覆っている神経細胞群のこと。人間の進化の過程で新しく発達した脳で、思考や理性、行動、認識、などを司る。 120〜140億個の神経細胞がいくつかの層を成して配列しているそうです。 その内側にある大脳辺縁系(旧脳)は、人間が進化する以前から持っていた、生命維持のための食欲、性欲といった本能的な行動、あるいは喜びや悲しみ等の感情、記憶を支配している古い脳です。 進化の過程で大脳新皮質が発達するにしたがい、大脳辺縁系は徐々に奥へ閉じ込められたようです。 脳幹(旧脳)は、人が生命を維持するための呼吸・心拍・摂食などを司る脳です。 小脳は大脳の尾側に位置し、脳幹の後ろの方からコブのように張り出した小さな器官で、主に手足のバランスをとる能力で、体の中心線の平衡感覚を司っている脳です。 では、五感の器官はどう作用するか。 聴覚・視覚・触覚・味覚は、一旦大脳新皮質に伝えられて理性的フィルターを通した後に、大脳辺縁系に伝わるが、嗅覚だけは直接大脳辺縁系に伝達されるそうです。 つまり、嗅覚は本能だけが働き、他器官は本能と理性の両方が働くというから、実に合理的に出来ている。 ■ 音楽と大脳の働き: 上記を繰り返して言えば、聴覚は大脳新皮質経由で大脳辺縁系に伝わるが、危険を知らせるような異常音や理性を伴わない音は、大脳新皮質(新脳)をスルーして大脳辺縁系(旧脳)に直結することになります。 これを音楽だけで捉えてみると、音楽を聴いた時の好き嫌いを含む直感的感情は大脳辺縁系で処理され、 ゆとりの中で聴く複雑な和音やメロディーの感じ方は大脳新皮質で処理されることになります。 つまり、好きな音楽を聴きたい本能的な欲求は大脳辺縁系(音楽を直感的に聴く)が満たし、 オーケストラの生演奏を優雅に聴きたい欲求は大脳新皮質(音楽を理性的に聴く)が満たします。 音楽を聴いて気持ちが明るくなったり、リラックスしたりすることがあれば、それは理性ではなく、大脳辺縁系が本能的に刺激されてドーパミンの分泌量が増えるからです。 そして、その本能的な感情を満たす大脳辺縁系は、一定のリズムが不規則に繰り返される「1/f ゆらぎ」を聴くことで、自律神経が整い、心が一層穏やかになる傾向があります。 その理由は、ゆらぎ自身が、脳幹が司る人の生体リズムと同じだからだと言われています。(参照:3章(3)生体のリズムと「1/f ゆらぎ」) ■ 人間の脳は「新脳」と「旧脳」とに分かれる・・・(こちらのほうが解りやすい) 上記、大脳の働きを別の言葉でもう少し付け加えると、 旧脳は、感情の動きの脳である大脳辺縁系と、生命を維持するための循環、呼吸、消化などの自律的機能を持った脳幹 とに分かれるが、 何れも人間が生きるための基本的な欲求だけを限りなく追求し、本能が単純に満たされると旧脳は安定する。 したがって、好き嫌いに理由はなく、本能が満たすままに直感的に決めて満足してしまいます。 新脳(大脳新皮質)は、思考力や言語能力など、人間的な活動を支えるための中枢になります。 ここでは理性が働き、本能が満たされたことを前提に、更に「より深い快楽/満足感」を求めます。 たとえば、眠いので寝たいというのは旧脳の欲求で、静かに布団の上でゆっくり眠りたい、というのは新脳の欲求。 お腹が空いたので何か食べたいというのは旧脳の欲求で、美味しいものを高級レストランで食べたいというのは新脳の欲求です。 何か作業をしながらBGMを流し聞きするのは旧脳の欲求で、演奏曲を味わいながら耳を傾けて聴くは新脳の欲求です。 ■ 右脳と左脳: 上記と異なり、大脳を右半球と左半球の部位に分けてみると、この2つは機能が大きく異なります。 右脳は映像化力、記憶力、想像力、ひらめき、直感を司る脳です。視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感にも関係し、好き嫌いも本能的に直接決める。 このことから、右脳派の特徴は、感情表現が豊か/感性が鋭い/アナログ的/などと言われます。 左脳は言語処理、計算力、論理的思考を司る脳で、記憶脳は右脳に比べると劣っている。 このことから、左脳派の特徴は、論理思考/客観的/デジタル的/几帳面/などと言われます。 3.和む音には、不規則な揺らぎがある ・・・ Simple is Best 4.鍛冶屋の鉄打つ音から音楽の存在を予想 ・・・ ピタゴラス音律の誕生 5.ピタゴラス音律 ・・・ ミ-ファ、シ-ド間が半音なのは? 6.平均音律と純正音律 ・・・ それぞれの歩みと特徴 7.各音律の特徴、音程の話/音の調和とは 8.協和音・不協和音について 9.自然に発生する音はすべて正弦波の組み合わせ ・・・ 倍音の誕生 10.ハーモニック(高調波・倍音・調和)と 倍音列 11.基音が音程を決め、倍音が音色を決める 12.和音・差音・うなり音・ハーモニー ・・・ 差音の謎:綺麗な音と嫌な音 13.共振・共鳴・同調 ・・・ 群軽折軸の如く 14.調の成り立ち:テトラ・コード(TetraChord) ・・・ 短音階の謎 15.五度圏図・調号と臨時記号 |