空間フィルタ
フィルタとはろ過器のことで、特定の光線だけを通す特殊なガラスやたばこのニコチンをとり除く吸い口と同じことで、
画像にも形で表現できない数式のフィルタを通すことによって、画像を鮮明にしたり、
ぼかしたり、部分的にモザイクを入れたり、
或いは版画のように画像に凹凸を付けてみたり、と云った具合でいろんな操作ができます。
★ 前にもお話したように、
一枚の写真をデジタル化してルーペで大きく引き伸ばして観察してみると右図のように、
写真も一つ一つの画素の集合体であることが分かります。
したがって、この一つ一つの画素に何らかのフィルタを通して新しい画像に変換することになりますが、
一つの画素が存在すると云うことは必ず近傍の画素の影響を受けているわけだから、
その近傍画素の状態も考えながら注目画素のフィルタ操作をすることになります。
近傍画素が互いに影響し合ってと云いましたが、
これはその画像を表示する媒体によってその影響度が違ってきます。
CRTや液晶モニターなどは解像度が低いので画素間の距離が離れており、
一般写真は解像度が高いので画素間の距離は短いことになります。
このことは、解像度の低い場合は画素間の影響度がそれ程遠くまで及ばず、
解像度が高い場合は画素間の影響度が遠くまで及ぶことになります。
★ したがって、この性質を利用したフィルタ操作をした方がよいことになります。
しかし、人の目が既にフィルタ処理をしているので、コンピュータでそれ以上の処理をしても効果はなくなります。
★ 先ほど、近傍画素の状態も考えながら注目画素のフィルタ操作をすることになると云いました。
そこで実際にフィルタ処理する場合、先ず注目画素の座標位置を (i, j)、その位置の濃度値を N(i,j) とします。
そしてそのフィルタの大きさをどれ位のサイズにするか、
つまりどれ位離れた画素までフィルタに影響を持たせるかを考えます。
通常のCRTモニターで見る場合は、
CRT上に表示された画像では画素間の距離が離れているので遠くの画素の影響はあまり考える必要はありません。
したがって、通常では近傍画素の影響は3X3程度を使います。
★ しかし、画素間の距離が離れていると云っても、たとえば胸部レントゲン写真のように、
もともと低周波数成分に偏っている画像で、
一つの画素が遠くの画素にまで影響を及ぼす場合があります。
このような場合に鮮明な画像を得るためには64X64やそれ以上と云った大きなフィルタを使うこともあります。
★ 次にどんな性質のフィルタにするか、これによってそのフィルタを通したときの画像の性質が異なり、
シャープな画像になったり、ぼけた画像になったりします。
これらのフィルタの性質を図で示すと次のようになります。 各フィルタのサイズは3X3の例で上げていますが、
これらは説明用によく使われるフィルタの構造です。 (9)だけは少し変わった形です。
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各3X3内の数値がフィルタの性質を表しています。 中央の数値が注目画素に与えるウェイトであり、
その両隣の数値が対応する画素に与えるウェイトを示しています。
★ (1)、(2)は画像を平滑にする効果を出すフィルタであり、
n=1にするとノイズ除去には役立つがその分かなりぼけた画像になるため、
nの値を2〜8程度に大きくしてシャープネスの改善を図ります。
(1)のフィルタを通した後の注目画素の濃度値F(i,j)は次のように計算します。
F(i,j) = {N(i-1,j-1) + N(i,j-1) + N(i+1,j-1) + N(i-1,j) + n * N(i,j) + N(i+1,j) + N(i-1,j+1) + N(i,j+1) + N(i+1,j+1)} / (8 + n)
★ (3)、(4)は画像を鮮明にしたり縁部分を抽出したりする効果を出すフィルタであり、
nの値を4〜8程度にしますが、n=8程度だと急激に変化する部分を抽出する効果が出てきます。
しかし、nをあまり大きくすると、そこにノイズがあればそれも一緒に強調されてしまうことになります。
上の式と同様に(3)のフィルタで、n=8のときの注目画素の濃度値F(i,j)は次のように計算します。
F(i,j) = -N(i-1,j-1) - N(i,j-1) - N(i+1,j-1) - N(i-1,j) + n * N(i,j) - N(i+1,j) - N(i-1,j+1) - N(i,j+1) - N(i+1,j+1)
ここで、平滑化は積分効果、強調は微分効果と云うことになります。
★ 更に特殊なフィルタ効果として、(5)は縦線、(6)は横線を強調する効果があり、
(7)、(8)は隣接画素間の境界を抽出する効果があります。
最後の(9)は、これに他のフィルタを複合的に加えて強いエンボス効果を出すことができます。
★ このように、たった1点の注目画素に対してだけでもこれだけの計算をする訳ですから、
それが一枚の画像を形成する画素数全体に渡って同じ処理を繰り返し、
更にこれがカラー画像になるとその3倍となり、膨大な計算量になります。
3X3のフィルタ操作でさえこうですから、フィルタサイズを大きくするともっともっと膨大な処理になります。
このフィルタサイズは目的に合わせて、5X5とか7X7や更に大きくすることもあります。
極端な例では、上で述べたような場合に64X64とかそれ以上にとることもあります。
★ ここで説明したフィルタを実際に使っている訳ではありませんが、
各種の空間フィルタの効果は、画像処理サンプルのページに掲載しています。
そちらを参照してください。
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