画像圧縮:その3

page 前回までの話のようにJPEGでは空間周波数領域への変換を、画像の部分領域8X8ごとに計算しており、 水平・垂直8次の成分までしか抽出していません。  それ以上の周波数成分は画像からカットされるための歪みが生じますが、 この歪み量は視覚特性からみて実際にはそれほど大きな問題にはなりません。
むしろ、視覚特性に合った効率的な圧縮を施すために量子化という方法で、 8X8の各周波数成分にどのような歪みを与えるかの方が重要になります。
「画像圧縮:その1」の項で「通信理論的に云うと、情報を伝える伝送路に歪み量Dを許容したときに "(Log D) / 2" だけ情報量を減らすことができる」と云っています。
各周波数成分に与えるこの歪み量によっては、伸張画像の劣化が激しかったり、目立たなかったりします。
また、同じ量子化特性で圧縮しても画像によって、圧縮率や画質の劣化程度がかなり異なることもあります。
★ 非常に極端とも思えますが、以下の例はサンプリングを4:1:1にして量子化だけ変えて見た例です。
量子化 本来なら、量子化方法をいろいろ変えて、それぞれの周波数特性で画像圧縮したときの画質を確認すればよいのですが、 膨大な量になってしまうし、特性を多少変えてモニター上で評価してみても差異が殆ど認められないので、
ここでは、輝度情報には右図のようなほぼ標準的な量子化テーブルを、 色情報にはそれよりやや多めの歪み量を与えた量子化テーブルを用いて、
(1)四次成分以降を極端にカット(1/128)した場合、
(2)直流と三次成分までを極端にカット(1/64)した場合、
(3)直流と一次成分を極端にカット(1/96)した場合、
のそれぞれについて画質を見てみます。

★ 下の各サンプル上の数値は原画像情報を100としたときの、 圧縮後の画像情報量を%で示しています。 (100−各%値=圧縮量)
画面の都合上、サンプル画像がかなり小さいため画質の差異が分かり難くなっていますが、 (1)は高周波成分を極端にカットしたためその成分が失われて、 ほぼ低周波成分だけで画像が構成されており、ぼけた画像になっています。
(2)、(3)のように今度は低周波成分を極端にカットした場合、 特に(3)の場合に直流、一次成分がなくなってくると滑らかな変化に追随できなくなり、 例のように四角の枠が現われるようになってきますが、 この枠は、8X8で周波数の量子化を行っているので、その8X8画素の窓が現れているのです。
★ 一般的にみれば圧縮率を高くすればそれだけ画質が劣化しますが、 下の例を見ても分かるように、 必ずしもそうではなく、 (1)に比べて(3)は圧縮率が低い(情報量が多い)にもかかわらず画質は(1)より劣化しています。  標準的な量子化に比べても、圧縮率はあまり変わらないのに画質だけは著しく劣化しています。
★ ここではあまりにも極端な例を示していますが、 上記のことから視覚特性に合わせた効率的な量子化の仕方が重要になってきます。
もう一つ、右端のサンプル画像を見てください。  この画像では量子化による画質への影響が他の画像に比べて少ないことが分かりますが、 原画像の状態によっては量子化の影響を受けやすい場合とそうでない場合が発生します。
また、同じ量子化特性を使っても、左端画像と右端画像では圧縮率に差があります。  左端は全体に滑らかな画像になっている分、圧縮効果も出やすくなります。
(以下のサンプルはご覧になるモニターによっては画質の差異がはっきりしない場合があるかも知れません。)
  圧縮後の画像情報量:8.2% 12.4% 13.0%
標準圧縮 標準圧縮1 標準圧縮2 標準圧縮3

  5.1% 6.4% 6.7%
(1) 圧縮1−1 圧縮1−2 圧縮1−3

  4.1% 9.4% 10.1%
(2) 圧縮2−1 圧縮2−2 圧縮2−3

  7.1% 11.3% 11.9%
(3) 圧縮3−1 圧縮3−2 圧縮3−3

page ところで圧縮率のことですが、通常使われる言葉は、 原画像が24ビットの情報量をフルに持っていると仮定しての話であり、 この画像の圧縮率はこうなっていますと云われても、その値を素直に受け止める訳にはいきません。
これは、実際の原画像が持っている情報量と仮定した情報量では差がありすぎて、 何を基準にしているか分からなくなるからです。

page インターネット上の画像ファイルで、プログレッシブJPEGというのを、 たまに見かけることがあります。
これは、インターレースGIFと同じような方法で、 画像ファイルを伝送するときその伝送速度が非常に遅くて画像表示までに時間がかかる場合に、 そのいらつきを軽減するため、とにかく何か表示させようと云うことで最初は質の悪い画像から表示を始め、 時間をかけて順次画質を上げながら表示していく方法です。
★ しかし、この方法は伝送速度が非常に遅い場合には有効かも知れませんが、 ハードディスクに保存してある画像ファイルを表示させる場合には煩わしい限りで価値はないものと思われます。