空間周波数成分

page なぜ空間周波数領域へ変換しなければならないかは、これまでに説明してきました。  このような変換を直交変換とも呼んでいるように、 抽出した各周波数成分は本来なら互いに独立した成分でなければなりません。  しかし、実際にはそうはならないので、ここではこの問題を取り上げてみます。

page これまでに言葉だけは何度も出てきましたが、 ここで画像のもつエネルギー分布および折り返し歪みの影響について少し見てみます。  前に述べたように、画像を空間周波数領域へ変換すると、 その画像の性質に応じて無限に広がる周波数成分が出てきます。
全体に滑らかな部分の多い画像は低周波成分が多く、 変化の激しい部分の多い画像は高周波成分が多いことになります。
折り返し歪み 右図はその周波数特性を模式的に示した例です。  画像の場合は本来なら水平・垂直両方向の成分が存在しますが、 ここでは一つの周波数成分として見ています。
横軸を各周波数成分、縦軸をエネルギー値で示すと一つのエネルギー分布が得られます。  このエネルギー分布は各周波数成分ごとの発生頻度の分布であり図のようなグラフで表すことができ、 これが画像の周波数特性と云うことになります。
★ このときの周波数成分の数は、 静止画像の場合には最大でその画像サイズに相当する数まで抽出できるはずですが、 前にも述べたような理由でJPEGでは実用的な範囲で画像の部分領域8X8ごとに計算しており、 水平・垂直それぞれに8次の成分までしか抽出していません。  と云うことは、それ以上の周波数成分は画像からカットされていることになります。

page ここで、画像が実際にもつ周波数成分の中から高周波成分をカットしたとき、 どのような影響を及ぼすかが問題になります。
ある画像の周波数を抽出したときの周波数特性が上図の黒の曲線であったとします。
正確な表現になっていませんが模式的に描くと、 カットした周波数成分は緑の曲線で示すようにカット位置を対称軸に内側に折り返してきます。  これが折り返し歪みとして処理した画像に現れてくるのです。
★ 前回は周波数領域へ変換するときの変換誤差について述べていますが、 カットした高周波数成分が折り返してこの変換誤差になっているのです。
つまり、抽出した部分領域8X8内の各周波数成分は純粋な成分ではなく、 カットされた周波数成分が交絡していることになります。
★ 大変まわりくどい話になってしまいましたが、この歪みが視覚的にどの程度影響するか、 影響しない範囲の周波数成分ならカットしても差し支えないことになります。
これは画像によっても異なり、結局は人が見て判断せざるを得ません。
視覚的に上図の折り返し歪み(1)まで許容できるか、 或いはもっと周波数をカットして折り返し歪み(2)まで許容できるかと云うことになります。

page JPEGのような画像圧縮方法では、高周波成分(急激に変化する部分)の情報を多く捨てるため、 コントラストのはっきりした画像では、その輪郭部分に歪みが生じてしまいますが、 一般画像のようにその輪郭が曖昧な場合には殆ど影響がありません。
ところがCG画像のような場合には、 コントラストがはっきりしていることが多くその輪郭部分の歪みが目立ち易くなります。
これも、人の目が、変化の少ない平坦な部分から急に状態が変わるような部分は、 その変化点を注視するように見る習性があるためです。
特にレンダリング処理した高品位なCG画像のような場合に、輪郭部分以外では高周波成分が少ないため、 その成分をカットする量も少なく圧縮効果では一般画像に比べれと効率的とは言い難いものがあります。
むしろ、可逆圧縮の一つである、 PNGファイル(別の項で説明します)の方が優れている場合があります。

page 前に空間フィルタの話をしましたが、ここでも同じようなことが云えます。  たとえば、ある画像を鮮明にしようとして、 ある周波数領域のエネルギー値を持ち上げた上図ピンク色で示すような周波数特性で、 しかも(2)の折り返し歪みまで許容するような空間フィルタを用いて画像強調を施こすと、 処理後の画像がざらざらした感じになることがあります。
これはカットした高周波成分が折り返して内側にある低周波成分と重なっていたずらしたためです。
★ 下の左画像は濃度変換の項で述べた処理後の画像です。  右画像は少し極端な例ですが、左画像を上図ピンク色のような周波数特性で、 しかも高周波成分をかなりカットしたときの画像です。  これを見ると全体にかなりのざらつきが目立ちますが、 これは折り返し歪みの影響を受けた結果になっています。
濃度変換画像 極端な画像強調

page 以上のように、画像を空間周波数領域へ変換したとき、 そこで抽出された各周波数成分には他の周波数成分も交絡しており、 純粋な周波数成分になっていないことになります。
つまり、画像処理した結果では、たとえ滑らかな部分でもカットした高周波成分が含まれており、 画像処理するときの周波数特性の選び方によっては、 その滑らかな部分にもざらつきが目立ったり、 逆に急峻に変化する部分では鮮明さが失われて滑らかになったりすることがあります。
これらの背景を踏まえた上で次回は、 各周波数成分毎にどのような歪みを与えるかについて見てみます。